聞きやすいアナウンス音声をめざして【Part 2】

同じアナウンスをする場合であっても、話す人、あるいは同じ人でもその話し方が変わることで、音声を聞いたときに聞き手側で受ける印象やメッセージの聞きやすさ、伝わりやすさが変わることがあります。今回は特に、同じ話し手が異なる「声質(voice quality)」でアナウンスをしてみたときのことを想定してみました。

例えば、次のようなアナウンス音声があるとします。

「本日も東京ソフィア線をご利用いただきまして、誠にありがとうございます。次は上智大学前です。足元にご注意ください。左側のドアが開きます。」

これを、異なる声質で読んでもらった音声が以下のものです:

1) speech_vq1.wav
2) speech_vq2.wav

これらの音声の録音には、牧野可奈さんにご協力いただきました(録音は2019年12月)。牧野さんには、1)ではアナウンス原稿を読むときのように声を出してもらいました。そのため、1)は比較的聞きやすいアナウンス音声になっていると思います。一方、2)の録音に際しては、ちょうどその頃、荒井研究室で行われていた卒業研究の1つがある声質に焦点を当てていたので、それを意識して原稿を読んでもらいました。それが「気息性(breathiness)」です。気息性を伴う声は息が混じり、息漏れ声になります。Klatt博士の研究によると、女性の声は一般的にbreathyな声になる傾向があると報告しています(Klatt & Klatt, 1990)。そして、Hanson博士は、女性の声質とその音響関連量について詳細に調べています(Hanson, 1997)。同じ話者であっても、気息性の程度は変わります。結果的に、上の音声の例では同じ話者であるのにも関わらず、異なる声質で録音された2つのアナウンス音声が得られたことになります。

ご協力いただきました牧野可奈さん、どうもありがとうございました。
  1. D. H. Klatt and L. C. Klatt, “Analysis, synthesis and perception of voice quality variations among female and male talkers,” J. Acoust. Soc. Am., 87, 820-857, 1990.
  2. H. M. Hanson, “Glottal characteristics of female speakers: Acoustic correlates,” J. Acoust. Soc. Am., 101, 466-481, 1997.