聞きやすいアナウンス音声をめざして【Part 11】

以前から同じ音声学の研究分野でご一緒の清泉女子大学の木村琢也先生ですが、いつもその声が素敵であることに加えて、発音の1つ1つを丁寧にされているという印象を持っておりました。それもそのはずです、木村先生は音声学を専門とされていることから世界中の言語の音声について、個々の音の出し方を熟知されている方なのです。ですから当然と言えば当然なのかもしれません。しかし、木村先生ほど細部にこだわっていらっしゃる(私はそう感じています)その発音は、他の方にはそうそう真似の出来ない特殊な技能と言えます。

その木村先生が話される日本語音声の中で私が最も感銘を受けるのが、その鼻濁音の絶妙なコントロールです。これはまさに、ピアノを演奏する際に優しくペダルを踏むが如く、とても丁寧な発音で鼻濁音を入れて話されるという、そういう話し方が良い意味でとても気になっておりました。そこでこの度、木村先生には1つの同じ文を鼻濁音に注目しながらいくつかのパターンで読んでいただきました。録音は2024年2月3日に行われました。

読んでいただいたのは、「外国に移住後、15年が経った。」という文。この文には、「外国」の/ga/、「移住後」の/go/、「15」の/go/、「年が」の/ga/というように、4つのガ行音が出てきます。ここで、すべての/g/が鼻濁音になり得るかというと、そうではありません。日本語の規則では、語頭や数詞の/g/は鼻濁音にならないため、規範としては「移住後」と「年が」の2か所だけが鼻濁音になります。そこで、まずは規範となる発音によるものをお聞きください。

次にお聞きいただくのは、「年が」の/g/だけが鼻濁音になったものです。

そして次が、いずれも鼻濁音になっていないものです。

最後に、同じ文で4つすべての/g/を鼻濁音で発音したらどうなるか、無理なお願いをしてみました。

以上の4つを聞き比べて、皆様はどれが一番、聞きやすかったでしょうか。現代の日本語では、3つめのように鼻濁音がまったく入らないケースが多くなりました。一方、鼻濁音にならないからと言って、/g/自身がいわゆる「有声軟口蓋破裂音」として発音されるかというと、そうとも限りません。破裂が弱くなり、時には「有声軟口蓋摩擦音」として発音されることも散見されます。とは言え、鼻濁音になり得る箇所でちゃんと鼻濁音になっている1つめの音声を聞くと、なぜか日本語が柔らかく聞こえないでしょうか。

録音に際しては、4つめの例のように実際はあり得ない日本語の発音までお願いしてしまいましたが、さすが木村先生。そのようなリクエストにも見事にお答えいただき、音声学者魂を垣間見たひと時でした。

ご協力いただきました木村琢也先生、どうもありがとうございました。

録音の様子(2024年2月3日)
荒井研究室内防音室にて