私たちは異なる母音の質を実現するとき、音声器官を動かして声道の形状を変えます。以下に、日本語5母音を発話した際の正中矢状断面における声道の形状(左)と、それをまっすぐに伸ばして模式的に表した形状(右)を示します。
この図を見ると、以下のことがわかります:
- 母音/i/:前腔に狭めが存在しているのに対し、後腔が大きくなっている。
- 母音/e/:前腔に狭めが存在し後腔が大きくなっているのは/i/と同じだが、/i/よりも狭めが広い。
- 母音/a/:口唇側の開口部(と前腔)は比較的開いているのに対し、後腔に狭めが存在する。
- 母音/o/:/a/と同様に後腔に狭めが存在しているが、口唇側の開口部が細くなっている。
- 母音/u/:声道の中央付近に狭めが存在しているのと同時に、口唇側の開口部も細くなっている。
千葉・梶山(1941)は彼らが測定した声道形状をもとに模型を実現しており、彼らはその模型に喉頭原音を入力することで、自然音声に近い母音が模型によって生成されることを確認しています。「母音」の出版60周年を記念して、Arai(2001)はその模型を復元しました。それが、以下の筒型の声道模型です。
この筒型声道模型を使って、母音を実際に出してみましょう。喉頭原音として、電気喉頭を使います。まず電気喉頭だけで、どのような音がするかを確認しましょう。
確かに、ブザー音にしか聞こえません。続いて、筒型声道模型に対して電気喉頭を入力すると、母音の質がそれぞれ変化する様子が観察されます。
- Arai, T., “The replication of Chiba and Kajiyama’s mechanical models of the human vocal cavity,” Journal of the Phonetic Society of Japan, 5(2), 31-38, 2001.
- Arai, T., “Education system in acoustics of speech production using physical models of the human vocal tract,” Acoustical Science and Technology, 28(3), 190-201, 2007.
- Chiba, T. and Kajiyama, M., The Vowel: Its Nature and Structure, Tokyo-Kaiseikan Pub. Co., Ltd., Tokyo, 1941.(千葉勉, 梶山正登著, 杉藤美代子, 本多清志訳, 母音-その性質と構造-, 岩波書店, 2003.)