片側が閉じて片側が開いているような一様音響管における共鳴は、周波数が基本振動の奇数倍のときに起こります。この音響管の一部がわずかに狭くなったとき、これらの共鳴周波数がどのように変化するかを、パータベーション理論は教えてくれます。まず、一様音響管における定常波に対する空気粒子の体積速度分布を、第1番目の共鳴モードと第2番目の共鳴モードについて見てみましょう。
このとき、パータベーション理論によると、
- 腹に狭めがあると、その共鳴モードに対する共鳴周波数は低くなる、
- 節に狭めがあると、その共鳴モードに対する共鳴周波数は高くなる、
となります。
この事実から、次のことが導き出されます:
- 口唇が狭まると、全共鳴周波数が下がる、
- 第2共鳴モードでは、咽頭部付近に腹があるので、そこに狭めがあると第2共鳴周波数が下がる、
- 第2共鳴モードでは、硬口蓋付近に節があるので、そこに狭めがあると第2共鳴周波数が上がる。
これらのことから、
- 母音/i/:硬口蓋に狭めがあるので第2共鳴周波数が高い、
- 母音/a/:咽頭部に狭めがあるので第2共鳴周波数が低い、
- 母音/u/:口唇部に狭めがあるので第1共鳴周波数も第2共鳴周波数も低い。
パータベーション理論自身は音声生成の理論ではなく一般的なもので、Ehrenfest (1916)の定理に基づきます。音声生成におけるパータベーション理論は、声道形状とフォルマント周波数の関係を、声道におけるある部分での断面積の微小変化がフォルマント周波数に与える影響として示してくれます(Stevens, 1998)。
ところで、Chiba and Kajiyama (1941)のThe Vowelの第11章では、いくつもの図(Fig. 96-98)を交えて、彼らの測定結果に基づき様々な母音の形状と第1・第2フォルマントに関する音圧分布や速度分布を計算しています。このように声道における波の伝搬に関する物理現象を示したのは、Chiba and Kajiyamaが世界初であると考えられています(Motoki, 2002)。
しかし、そのことが認識されたのは何十年も経ってからでした。The VowelのFig. 93(下図)はFantによって、そしてその他の多くの論文によってその後、引用されるようになりました(Maekawa, 2002)。
- Kent, R. D. and Read, C., Acoustic Analysis of Speech, Singular Publishing, San Diego, CA, 2001. (荒井隆行, 菅原勉 監訳, 音声の音響分析, 海文堂, 1996.)
- Arai, T., “History of Chiba and Kajiyama and their influence in modern speech science,” Proc. of From Sound to Sense: 50+ Years of Discoveries in Speech Communication, 115-120, 2004.
- Chiba, T. and Kajiyama, M., The Vowel: Its Nature and Structure, Tokyo-Kaiseikan Pub. Co., Ltd., Tokyo, 1941.(千葉勉, 梶山正登著, 杉藤美代子, 本多清志訳, 母音-その性質と構造-, 岩波書店, 2003.)
- Ehrenfest, P., Proc. Amsterdam Acad., 19, 576-597, 1916. (Citation from Schroeder, M. R., J. Acoust. Soc. Am., 41, 1002-1010, 1976.)
- Maekawa, K., “From articulatory phonetics to the physics of speech: Contribution of Chiba and Kajiyama,” Acoustical Science and Technology, 23(4), 185-188, 2002.
- Motoki, K., “Three-dimensional acoustic field in vocal-tract,” Acoustical Science and Technology, 23(4), 207-212, 2002.