接近音は比較的ゆっくりと調音器官を動かします。それに対して閉鎖音の場合には、調音器官は比較的速く動きます。逆に、接近音をかなりゆっくりと調音すると、2つの母音を連続的に生成しているかのように聞こえます。調音器官が同じように変化しても、閉鎖音、接近音、連続母音によってその動く速さが違います。その速さによって閉鎖音に聞こえたり、接近音に聞こえたりするのです。そこで/w/について、その様子を以下のデモンストレーションでみてみることにしましょう。
このデモンストレーションでは、上図のようにフォルマント合成器を使ってフォルマント周波数を変化させてCV(子音・母音)音節、あるいは母音の連続を合成しています。このとき、閉鎖子音の破裂に伴うバーストは合成していません。変化させているパラメータはフォルマントの遷移時間だけです。遷移時間が60 ms以下と比較的短いと閉鎖音に、100 ms以上と長いと母音の連続に、その中間ぐらいだと接近音に聞こえます。
合成に関する各パラメータは次の通りです:
- 後続母音は/i/(F1は310 Hz、F2は2000 Hz、F3は3000 Hz、F4は3500 Hz、F5は4500 Hz)
- 母音遷移部はF1とF2のみ変化させた
- 遷移時間は20 msから160 msまで20 ms刻みで変化
- F1の遷移開始周波数は200 Hzで一定
- F2の遷移開始周波数は1100 Hzで一定
- 基本周波数は130 Hzで一定
formant transition | 20ms | 40ms | 60ms | 80ms | 100ms | 120ms | 140ms | 160ms |
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- Kent, R. D. and Read, C., Acoustic Analysis of Speech, Singular Publishing, San Diego, CA, 2001. (荒井隆行, 菅原勉 監訳, 音声の音響分析, 海文堂, 1996.)