荒井研究室ニュースレター 2004

1. MITでの在外研究

1.1 MITでの研究とアメリカ音響学会

私は9月まで1年間、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of Technology, MIT)で在外研究をしておりました。MITでは、RLE(Research Laboratory of Electronics)研究所のProf. Kenneth N. Stevens率いるSpeech Communication Groupの客員研究員(Visiting Scientist)として、Prof. Stevensと共に研究活動を行いました。

MITでの研究成果については、MIT, Speech Communication Groupのセミナーにて発表後、5月にニューヨークであったアメリカ音響学会の研究発表会にてポスター発表を行い、多くの研究者に興味を持っていただきました[2004_19]。その後、その研究結果は論文にまとめ近々アメリカ音響学会誌に投稿する予定です。

MIT, Speech Communication Groupのセミナーでの発表風景(左ならびに中央)と、
アメリカ音響学会の春季研究発表会でのポスター発表(右)

ところで、ニューヨークのアメリカ音響学会研究発表会は、大変特別なものでした。というのも、アメリカ音響学会の生誕75周年記念であったからです。学会会期中に開催されたバンケットにも出席いたしましたが、75周年をお祝いする大変貴重なバンケットでした。歴代の学会会長の中でNational Medal of Scienceを受賞された3名の先生方も招待されており、注目を集めました。Leo Beranek, Kenneth N. Stevens, James Flanaganです。大変興味深いことに、Beranek先生がMITで教鞭を取られているときにその下で博士の学位を取られたのがStevens先生、そしてStevens先生がBeranek先生のポストを引き継いで教鞭を取られるようになられてすぐに博士の学位を取られたのがFlanagan先生と、3名が順番に師弟関係にあること。さらに、メダルの受賞は逆の順番であった、ということです。(詳しいことは、[2004_16]にも述べさせていただきました。)

ASA Meeting, 75th Anniversary Banquet (From ASA “Echoes” Newsletter, Vol. 14, No. 3, 2004)

なお、学会に合わせて、City University of New York (CUNY)のSpeech and Hearingの専攻のOpen Houseの見学、Haskins研究所の見学、さらにColumbia大学のDr. Dan Ellisを訪問するなど充実した日程をこなしました。

1.2 国際音響学会議ICA 2004と音響教育関連

MITに滞在中、別の大きなイベントがありました。それは、4月に京都で開催された国際音響学会議(International Congress on Acoustics, ICA)です。私はアメリカにいて、さらに国際会議であるのにも関わらず、開催地が日本ということで、短期間の一時帰国をいたしました。このICAでは、音響教育のセッションオーガナイザを引き受け、1年前からずっと招待講演者と連絡を取り合ったり、他のオーガナイザであられるProf. Thomas Rossingや名城大学の吉久光一先生をはじめ、東京大学の橘秀樹先生、東北大学の鈴木陽一先生など学会関係者の方々と連絡を密にするなど、かなりハードな毎日を送っておりました。(招待講演者はオーガナイザも務めたProf. Rossing、それから私自身の他、次期アメリカ音響学会会長候補のProf. Anthony AtchleyやProf. William Hartmann、Prof. Donald Campbell、Prof. Dawn Behneなど。)

さらに、音響教育のセッションではデモンストレーションの展示セッションも行うということで、Prof. Rossingの推薦によって高校の物理の先生方のグループ「Stray Cats」にも参加していただきました。私自身も補聴器のセッションで招待講演をお引き受けし[2004_09]、自分の音響教育のセッションでも招待講演[2004_10]、さらに音響教育のデモ展示セッションにおいて声道模型を中心とした「招待デモンストレーション」を前田絵理他荒井研メンバーと行いました[2004_11]。さらに、アカデミック展示というセッションにも、同様の声道模型の展示で参加させていただきました。ICAの様子をNHKの京都放送局が取材に来た際、私どもの声道模型のデモや高校の物理の先生のグループ「Stray Cats」のデモがNHK夕方のローカルニュースに取り上げられ、とてもよい思い出となりました。

左上:国際音響学会議(ICA)の声道模型展示会場におけるNHK京都放送局の取材風景
その他:オンエアされた画面より(2004年4月7日夕方)

補聴器のセッションでの招待講演[2004_09]では、荒井研の安啓一や程島奈緒の研究内容も織り交ぜ、荒井研の成果を発表。セッション後は、招待講演者のメンバーと共に懇親会に出席。Prof. Brian MooreやProf. Tammo Houstgast、Dr. Chin-Tuan Tanを始め、セッションオーガナイザーの東北大学鈴木先生や先生の研究室の方々と楽しいひと時を過ごすことができました。

荒井研の程島奈緒、後藤崇公、大畑典子、井上豪は、残響環境下における音声明瞭度改善のテーマで発表[2004_12]。その後、サテライトシンポジウムとして開催されたRADS(Room Acoustics: Design and Science)でも発表を行いました[2004_13]。

2003年は国際音声科学会議(International Congress of Phonetic Sciences, ICPhS)で、教材に関するシンポジウムのオーガナイザーをさせていただきましたが、今回もよい経験をさせていただきました。2006年には、アメリカ音響学会と日本音響学会のジョイント会議があり、私が日米両方の音響学会の教育委員会のメンバーであるということもあって、音響教育のセッションのオーガナイザーに任命されました。そこでも今までの経験を活かし、さらに良いセッションになるように努力していこうと思っております。

ところで、上記で述べたニューヨークでのアメリカ音響学会研究発表会では、教育委員会にも出席いたしました。というのも、(前述の通り)私が2003年から教育委員会の委員をしているからでした。そこでは、ICAでお世話になったProf. Thomas RossingやProf. Anthony Atchleyなどにも再会しました。特にProf. Rossingに「ICAで大変興味深いデモンストレーションがあった」ということで、私の声道模型のデモを全委員に紹介してくださり、「もし可能であれば、次回のSan Diegoのときに紹介してくれないか?」という嬉しいお申し出もいただいておりました。そのお申し出については、その後、残念ながら都合がつかず、ご期待にはお答えすることができませんでした。しかし、その代わりに少なくとも2006年のジョイント会議ではまた声道模型のデモを行うつもりです。

上記のような声道模型に関する活動から、日本音響学会誌では声道模型に関するQ&Aを取り上げてくださり、短い解説を書かせていただく機会に恵まれました。

声道模型に関するQ&A(日本音響学会):
http://www.asj.gr.jp/qanda/answer/139.html

1.3 MITが主催した学会“From Sound to Sense”

MITに滞在中に、Prof. StevensがMITで教鞭を取られて「50+」年になることを記念した”From Sound to Sense: +50 Years of Discoveries in Speech Communication”という学会が、MITを会場にして催されました(chairはオフィスメイトであったDr. Janet Slifka、co-chairはDr. Sharon Manuel)。そこでは、Prof. Stevensと一緒に近代音声科学の分野を確立したスウェーデン王立大学(Royal Institute of Technology, KTH)のProf. Gunnar Fantもいらっしゃいました。これをいい機会にということで、IEEEはProf. StevensとProf. Fantの両先生に対するFlanagan賞の授与式を、学会の会場で行いました。Prof. Flanaganは上記のアメリカ音響学会のところで述べた3名のうちのお一人で、もとはProf. Stevensの弟子にあたりますが、卒業後、Bell研究所にて音声科学ならびに音声工学の発展に大きく寄与。それを記念してIEEEではFlanagan賞というものが出来た、ということです。

この学会には、その他、音声学の権威であられるカリフォルニア大学Los Angels校(UCLA)のProf. Peter Ladefoged、カリフォルニア大学Berkeley校(UCB)のProf. John J. Ohalaなど大勢の方々が国内外から参加しました。日本からも、Prof. Stevensのもとを長期に訪れたことのある日本の音声分野を代表する東京大学藤崎博也名誉教授や東京大学広瀬啓吉教授などもいらっしゃいました。学会のバンケットでは、藤崎先生と一緒にワインをProf. Stevensにプレゼントし、とてもいい思い出となりました。そして、Prof. Stevensに対して、研究室からは思い出の写真がいっぱい詰まったスクラップブックが贈呈されました。その写真貼りなどを一緒にお手伝いさせていただけたことも、とても貴重な思い出です。

MIT関係でもディジタル信号処理の産みの親で最初の専門書(Digital Processing of Signals)を1969年に出版したMIT Lincoln Lab.のDr. Ben Gold、ディジタル信号処理の大家でいらっしゃるMIT RLEのProf. Alan Oppenheim、私のいたSpeech Communication Group出身で現在は学会会場となったStata Centerの建物に新しく場所を構えたMIT CSAIL(Computer Science and Artificial Intelligence Laboratory)研究所の所長であられるProf. Victor Zue先生、音韻論の権威であられるMIT言語学科のProf. Morris Halleなど、多数の方々が参加されました。

その学会では私もポスター発表をしました。そこでは、近代音声学分野の設立に貢献した”The Vowel: Its Nature and Structure” の執筆者であられるChiba and Kajiyamaらの歴史と、彼らがProf. StevensやProf. Fantなど多くの音声科学者に与えた影響などをまとめた、今回の学会の主旨に最も適した内容の発表を行いました(Prof. Chibaは執筆後に上智大学教授になられ、音声学研究室を作られた方です)。各先生方に対するインタビューなども交えた結果、Prof. Stevensからも大変貴重な資料になったと喜んでいただけました(詳しくは[2004_16])。

学会ではその他に、MITのSpeech Communication Groupの公開見学会が開かれました。そこで私は1室を与えられ、声道模型に関するデモンストレーションを行いました。Prof. Fantを始め、大勢の方々にデモを見ていただきました。ATRの本多清志先生もMRIに基づく精密な声道模型に関するデモをお持ちでしたので、一緒に参加されました。声道模型に関しては、その教育的な効果の高さがやはりここでも認められ、多くの方々に高く評価していただきました。

Prof. Stevensも、大変、私の声道模型を気に入ってくださいました。私はMIT滞在中、Prof. Stevensによる音声関係の授業をいくつか聴講させていただきましたが、その授業の中で幸運にも声道模型を用いた講義をするという機会に何度か恵まれました。そこでは私のほうから母音生成の簡単な説明をした後、声道模型を使って実際にデモを行ったのですが、さすがMITの学生はその質問が違います。かなり高度な質問についても対応することになり、それはそれで貴重な経験となりました。

左:Prof. Stevensの授業で声道模型を用いた講義をさせていただいたときの教室にて
右:Prof. Fantにも声道模型のデモを見ていただいたときの様子

学会の後、私がいたMITのSpeech Communication Groupでは、もっとChiba and Kajiyamaの功績を知りたい、ということでThe Vowelを読む読書会が開かれたほどでした。そこでは、私が中心になって日本の科学技術が当時は世界最先端であったこと、そしてChiba and Kajiyamaが近代音声科学の幕開けに大きく寄与したことを皆さんに説明しました。これにともなって、Chiba and KajiyamaのThe Vowel(第2版)を日本音声学会から10冊ほど調達し皆さんにお譲りしましたが、皆さんはその貴重な本を入手できたことに本当に喜んでおられました。

“From Sound to Sense”Conferenceのホームページ:
http://www.rle.mit.edu/soundtosense/

1.4 Dr. Ben Goldとディジタル信号処理、そして声道模型

Dr. Goldは前述の通り、世界で初めてディジタル信号処理を体系化され”Digital Processing of Signals”という本を1969年に出版された方です。彼はMIT Lincoln研究所を引退後、隔年でカリフォルニア大学Berkeley校にて音声信号処理に関する講義をされていました。私がBerkeleyにいた1997年に、ちょうど私は彼の講義を聴講する機会に恵まれました。彼のオフィスもちょうど、私がいた研究所、International Computer Science Institute (ICSI)の中にあり、毎週のように個人的にミーティングをさせていただきました。そのような縁があり、その後もかなり親しいお付き合いをさせていただいておりました。

実は今回、MITにて在外研究ができたのも、Dr. GoldがProf. Stevensを紹介してくださったのがそもそものきっかけです。Dr. GoldはProf. Stevensの良き友人であり、Dr. GoldはProf. Stevensの研究室で1年を過ごした際に、世界で初めてのディジタル信号処理の講義をMITでされたそうです。その後、ディジタル信号処理はMITのProf. Oppenheimに引き継がれ、今ではディジタル信号処理の教科書といえば、Oppenheim and Schafer著、「Discrete-Time Signal Processing」と言われるほどになりました。そのような縁から、私はProf. Stevensの研究室を2000年の夏から訪問。最初は夏の1ヶ月前後を過ごすだけでしたが、それは毎年続き、そして今回の在外研究、と続いたのです。

そのDr. Goldですが、今回の滞在中にもお宅にも何回か招待していただき、楽しい時間を過ごすことができました。しかし、私の声道模型をお見せする機会がほとんどなく、私がMITを去る直前に、Dr. Gold先生がお別れに来てくださった際、お見せする機会に恵まれました。Dr. Gold先生はその声道模型を見て、「是非、私が来年行うBerkeleyでの授業で学生に見せたい」とおっしゃってくださいました。とても嬉しいお話でした。そのような話をし、最後にお別れを告げるとき、たまたま近くにProf. Oppenheimが!Dr. Goldが「Al! Al!」と呼ぶと、Prof. Oppenheimが「Hi, Ben!」と。お二人にとっても久しぶりの再会だったようです。そのときの写真が以下のものです。

Dr. Ben Gold(左)とProf. Alan Oppenheim(右)に囲まれて

ちなみに、MIT訪問の最後の数週間、Prof. Oppenheim自身によるディジタル信号処理の講義を聴講するという機会に恵まれました。途中で帰国しなければならず、大変残念でしたが、その短期間にも多くのことを吸収することができました。Berkeleyで受けたDr. Goldの講義と、MITで受けたProf. Stevens、そしてProf. Oppenheimの講義、これらを私の自分の講義にも大いに還元していきたいと思っています。

なお、Dr. Goldにいただいた「Berkeleyの学生にも見せたい」とのお言葉ですが、その後、その可能性をいろいろと相談しました。ビデオを見せるという話も出ましたが、実際に私がBerkeleyに出向いて講義とデモをすることをDr. Goldにお約束しました。そして直前まで細かい調整を進めていたのですが、Dr. Goldは去る2005年1月15日、突然ご逝去されました。心よりご冥福をお祈り申し上げます。

1.5 その他の先生方との再会

1.5.1 東工大の古井貞煕先生

MIT滞在中、古井先生がCambridgeの我が家を訪問してくださいました。

1.5.2 カリフォルニア大学Berkeley校のProf. John J. Ohala

Berkeleyに寄った際、Prof. Ohalaがご自宅に招待してくださいました。そのときに、今度私が担当になる特集号の解説論文を書いていただけるというお約束をいただきました。

2. 電子情報通信学会の英文誌に招待論文

2003年の6月にATRで開催した音声・聴覚研究会ですが、1日を国際ワークショップとして「Speech Dynamics by Ear, Eye, Mouth and Machine」を、私とThe Speech InstituteのDr. Steven Greenbergとで一緒に開催しました。それを踏まえ、電子情報通信学会の英文誌、IEICE Transactionsの「D: on Information and Systems」では特集号が組まれ、私も編集幹事としてエディタとしての仕事に携わりました。その特集号に、招待論文として私たちの論文が掲載されました[2004_01]。

3. 受賞

3.1 日本音響学会のポスター賞受賞

2003年秋に行われた日本音響学会秋季研究発表会で、荒井研卒業生の大畑典子らが発表したポスターが、同学会のポスター賞を受賞しました[2003_28]。その授賞式が、2004年の春季研究発表会で行われました。

3.2 NCSPでStudent Paper Award

2004年の国際ワークショップNCSP(Nonlinear Circuit and Signal Processing)にて、荒井研の学生だった今野義男がStudent Paper Awardを受賞しました[2004_14]。

3.3 IHCONで安が奨学生に

隔年に開かれる補聴器の国際会議IHCON(International Hearing Aid Research Conference)に出席、発表した荒井研の安啓一が、Student Scholarship Awardを受賞し、奨学生として学会に参加しました[2004_20]。この論文は荒井研の補聴器プロジェクトの成果を発表したもので、小林敬も共同研究者。この研究に対しては以前から、聴覚分野の権威でいらっしゃるProf. Brian Mooreから問い合わせが来たりしていましたが、学会ではDr. Chin-Tuan Tanを始め多くの方々から様々なコメントをいただくことができ、有意義な発表ができたようでした。

4. 日中音響学会ジョイント会議の発表がレターに

2002年の12月に中国の南京で日中音響学会ジョイント会議が行われた際、荒井研から4つの発表がありました(程島奈緒、安啓一、前田絵理、三好徹)。その4件すべての内容が、日本音響学会の英文誌、Acoustical Science and Technologyの特集号にAcoustical Letterとして掲載されました[2004_042004_052004_062004_07]。

5. 上智大学で開催されたSophia Symposiumの招待講演者に

2004年の12月に上智大学で「New technology and the investigation of the articulatory process」というSophia Symposiumが開催され、そこの招待講演者としてMITで行ってきた研究の成果を紹介させていただきました。このシンポジウムは、上智大学外国語学研究科言語学専攻の音声学研究室を中心に、室長の菅原勉先生、東京農工大の都田青子先生、中央大学の徳間伸一先生らによってオーガナイズされたものでしたが、海外からもProf. William HardcastleやProf. Maureen Stoneなど、著名な先生方が招待講演者として招かれ、貴重な経験をさせていただくと同時に、上智大学が音声科学の学際的な研究拠点であることを国内外に示す絶好の機会ともなりました。

6. 国際共同研究ならびに国内共同研究

6.1 MIT

在外研究中、Prof. Stevensとの研究については上記の第1節の通りです。その他、MIT、Speech Communication GroupのDr. Joe PerkellにはEMMA(electromagnetic midsagittal articulometer)の実験などで大変お世話になりました。いろいろな機会を与えてくださったProf. Stevens、ならびにSpeech Communication Groupの皆様に改めて感謝申し上げます。

6.2 The Speech Institute

Dr. Steven Greenbergとの共同研究は、2004年に招待論文としてIEICE Transanctionsに掲載されました(第2節参照)。

6.3 National Center for Rehabilitative Auditory Research (NCRAR)

2004年の夏に再び訪問。Dr. Stephen FaustiやDr. Nancy Vaughan、Roger Ellingsonなどにお会いしました。ここは、荒井研卒業生の楠本亜希子がエンジニアとして就職した先。楠本の修士論文は、Dr. Vaughanの協力のもとでSpeech Communication誌に原著論文として掲載されました。また、Roger EllingsonとはICA 2004でも親しくさせていただき、2004年夏にはお宅にも訪問させていただく機会がありました。

左:Ohala夫妻のご自宅にて(左から)
右:Ellingson夫妻のご自宅にて(左から楠本亜希子、ご夫妻、荒井、智恵)

6.4 NTNU(Norwegian University of Science and Technology)

2004年夏から荒井研の程島奈緒がNTNUに研究留学。昔から研究の上でも親しくさせていただいているProf. Peter SvenssonとProf. Dawn Behneのもとで、荒井研との共同研究を進めています。

6.5 University of Arizona

Department of LinguisticsのDr. Natasha Warnerとの共同研究を続けています。その成果は[2004_21]に。

6.6 University of Maryland

Cognitive Neuroscience of Language Lab.の博士課程の学生であるMaria Chaitが、2003年12月から2004年1月にかけて、共同研究の一環として荒井研を訪問。荒井研の主に奥田拓馬と一緒に実験を進めました。

6.7 Polytechnic University of Puerto Rico

Dr. Kay Berklingとともに遠隔学習についての話を進めました。

6.8 石川工業高等専門学校

荒井研の自動音声認識プロジェクト(メンバー:岡田賢治、浅井健司)ならびに字幕プロジェクト(第7.2節参照)に関して、金寺登先生と共同研究を進めました。

6.9 北海道医療大学

荒井研で共同研究員を5年以上されていた小松雅彦先生との共同研究の成果がいくつかの論文になっています[2004_082004_182004_24]。

7. 産学連携

7.1 NTTアドバンステクノロジ株式会社(NTT-AT)

荒井研が技術提供した声道模型教材VTM-10が、引き続き高い評価を受けています。

声道模型教材VTM-10のホームページ:
http://www.ntt-at.co.jp/product/vtm10/

7.2 株式会社フジヤマ

上智大学理工学部リエゾンオフィス(SLO)が参加した東京技術交流会でマッチングに成功し、2004年から株式会社フジヤマ(吉井順子社長)と共同プロジェクトが始まりました。荒井研側のプロジェクトメンバーは、三好徹、浅井健司、栗山奏、深見政、藤樫佑樹。2004年度は、ディジタル動画における音声抽出を利用した字幕制作に関して、特に明瞭性の高い音声について音声区間を検出しそのタイムコードを書き出すシステムの開発技術を指導しました。

株式会社フジヤマのホームページ:
http://www.fujiyama1.com/

7.3 TOA株式会社

荒井研の拡声システムに埋め込む音声明瞭度改善のための前処理に関して、TOA株式会社と交流が本格化しました。2004年4月には神戸にあるXEBECホールの見学と、栗栖清浩さんを始め会社の方々とお会いしました。その後、栗栖さんとミーティングを重ね、ついにXEBECホールにて大規模な聴取実験を行うまでに至りました。荒井研側のプロジェクトメンバーは、程島奈緒、井上豪、後藤崇公、林奈帆子、宮内裕介。(XEBECホールの実験では田所史礼も参加。)

TOA株式会社のホームページ:
http://www.toa.co.jp/

8. 学内における文理融合

8.1 科学研究費補助金(基盤研究A-2, 16203041)

外国語学部菅原勉先生が研究代表者で、同学部飯高京子先生、進藤美津子先生、平井沢子先生、東京工科大学メディア学部の飯田朱美先生他と共に申請した研究課題、「コミュニケーション障害者に対する支援システムの開発と臨床現場への適用に関する研究」が通り、2004年度から文理融合型の新プロジェクトが4年間に渡り立ち上がりました。荒井研では特に、3本の柱の2本である「聴覚障害児者や老人性難聴者のための残響環境下における聞きやすい拡声処理と補聴器のための音声処理方式の開発と実用化への適用」と、「聴覚障害者の読話力と視覚情報および聴覚情報の関連性の調査」に関して、聴覚障害者や高齢者を対象とした実験など様々な研究を進めました[2004_042004_052004_092004_122004_132004_20]。今後は、もう1つの柱である「コミュニケーション障害者に対するコミュニケーション支援システムの開発と臨床への応用」にも積極的に協力していく予定です。

8.2 科学研究費補助金(基盤研究B-2, 14310132)

外国語学部飯高京子先生が研究代表者で、同学部菅原勉先生、笠島準一先生他がと共に進めている「文字言語習得につまずく子どもの鑑別診断と指導プログラム開発の基礎的・臨床的研究」に関してもプロジェクト3年目を無事終了し、2005年度が最終年度となります。

8.3 科学研究費補助金(基盤研究C-2, 15530629)

外国語学部平井沢子先生が研究代表者で、同学部飯高京子先生と共に進めている「発達性音韻障害児の音韻情報処理能力の解析と言語学習指導のためのプログラムの開発」に関してもプロジェクト2年目を終了し、2005年度が最終年度となります。本プロジェクトに関しては、荒井研の安啓一も積極的に関わり、本格的な実験も始まりました。2005年にはまとまった報告ができる予定です。

8.4 ハイテク・リサーチ・センター整備事業

1999年度にスタートした化学科瀬川幸一先生が研究代表者の「環境調和型社会構築のための基盤技術の開拓」も2004年3月をもって無事に終了いたしました。

8.5 学内共同研究(その1)

理工学部熊倉鴻之助先生が代表で、「ヒューマン・ケア・サイエンスに関する教育・研究プログラムの開発」という学内共同研究が2002年度から進められておりましたが、2004年度をもって無事終了しました。

8.6 学内共同研究(その2)

比較文化学部高橋由利子先生が代表で、「多様な言語を用いたコンピュータ上での学習環境と教材開発の研究」という学内共同研究が2002年度から進められておりましたが、2004年度をもって無事終了しました。

8.7 学内共同研究(その3)

外国語学部平井沢子先生が代表で、「発達性音韻障害児の言語発達特徴の解明と早期診断プログラムの開発および治療への応用」という学内共同研究が2003年度から始められており、2年目を終了いたしました。荒井研の安啓一と共に本格的な実験も始まりましたので、科研と並行しながらプロジェクトを現在も進めております(2006年3月31日終了予定)。

8.8 外国語学研究科言語学専攻音声学研究室

菅原勉先生ならびに音声学研究室の皆さんとの共同研究も進んでおります。特に、2004年の2月には網野加苗さんの修士論文審査の副査を務めました。論文題目は、“The Availability of the Nasal Consonants in Aural Speaker Identification: Verified by Perception Tests in Japanese and by Acoustic Analysis”(聴覚による話者識別における鼻音の有効性:日本語の聴取実験と音響分析による検証)。なお、審査会は私がMITに滞在中に開かれましたが、インタネットを使ってビデオ会議の形式で行われました。初めての試みでしたが大きな問題もなく無事に終了。将来、海外の先生方を審査員として加えることができる道を開くという意味でも、大変貴重な試みでした。

2004年12月には、音声学研究室の卒業生であられる下村五三夫先生の博士号の学位審査会が行われ、私が副査を務めました(論文題目は、「アイヌ発声口琴習俗の研究」)。その他、2004年度に荒井研を修了した前田絵理の修士論文審査の副査は菅原先生にお願いいたしました。

8.9 外国語学研究科言語学専攻言語障害研究センター

飯高京子先生、進藤美津子先生、平井沢子先生ならびに言語障害研究コースの皆さんとの共同研究も進んでおります。例えば、修士論文を一部指導した卒業生の方々が2004年に研究発表をされています[2004_032004_22]。また、2004年度に修士論文を書かれた卒業生の方々の中にも、何人かは私が部分的に指導をさせていただく機会に恵まれました。

8.10 心理学科認知心理学研究室

道又爾先生ならびに認知心理学研究室の皆さんとの共同研究も進んでおります。特に2004年度の卒業研究のうち、桑原恵子による音声知覚における脳の左右差に関する研究では大変興味深い結果が出ています。2005年度に奥田拓馬が同じプロジェクトを続け修士論文でまとめる予定。

9. 社会への貢献・学会活動・特許など

9.1 静岡科学館「る・く・る」の監修

私どもが開発した声道模型音響教育教材としてその価値を高く評価され始めている中、株式会社内田洋行から「静岡科学館にて、是非とも『子ども達が見て聞いて触れる展示』に使わせて欲しい」、というお話をいただいておりました。そのため、何回かの打ち合わせを経て、この度、2004年3月にオープンした静岡科学館「る・く・る」において声道模型に関する展示コーナーを実現することができました。この展示コーナーは「発声のしくみ」ということで、母音がどのようにして作られるかがわかるように工夫されています。例えば、ふいごを押すと筒型の声道模型から5母音が発声されたり、子ども達がパズル感覚でプレート型の声道模型を並び替えて任意の母音を作ったりなど。近くには発声のしくみを解説するビデオやアニメーション教材もあります。

静岡科学館「る・く・る」における声道模型の展示(筒型模型)

静岡科学館「る・く・る」のホームページ:
http://www.rukuru.jp/

9.2 IEEEのSenior Memberに昇格

Prof. Stevens、Dr. Gold、Prof. Furuiの3名の先生方にReferenceを書いていただき、2004年9月にIEEEのSenior Memberに昇格しました。

9.3 音声研究会幹事補佐

電子情報通信学会の音声研究専門委員会の幹事補佐、ならびに日本音響学会の運営委員を2002年から務めさせていただいておりましたが、MITでの在外研究のため、2003年9月をもって次の方にバトンタッチいたしました。在任中は2003年6月にATRにて国際シンポジウムを企画するなど、いろいろと貴重な経験をさせていただきました(第2節参照)。

9.4 日本音声学会

日本音声学会では企画委員を2001年から務めさせていただいておりました。同時期に、上記の通り音声研究会の幹事補佐もしておりました関係で、音声研究会と日本音声学会の研究例会とを共催することを提案、企画いたしました。1年前の2003年6月に国際シンポジウムを企画したこともあり、2004年6月に同じATRにて合同研究会を、日本音響学会の聴覚研究会も共催で開催することができました。企画委員は2004年以降も継続することになり、さらに2004年から評議員も務めさせていただくことになりました。

9.5 特許出願

残響環境下において音声明瞭度低下を予め防ぐ音声信号に対する前処理に関して、以前から変調フィルタリングを提案し、それに関する特許出願はすでに公開されている(特開2001-100774)。それに加え、新しい定常部抑圧処理に関して(特に実時間処理に適したFFTに基づく処理について)、「音声処理装置」という名称で特許出願を行った。発明者は、荒井隆行、程島奈緒、後藤崇公の3名。

9.6 著書の出版関係

我々が翻訳し海文堂から出版されているシリーズのうち「音声の音響分析」について、5版が2004年4月1日に重版されました。1996年の初版から、多くの方々に教科書等として愛読されてきた結果として、嬉しく思います。

10. 学位論文題目

10.1 修士論文

浅井健司
帯域ごとに異なる変調スペクトルの貢献度に基づく自動音声認識

前田絵理
音響教育支援のための声道模型を用いた口腔形状の可視化の検討

井上豪
残響環境下における音声の文了解度の改善を目的とした前処理の検討

三好徹
マルチメディア字幕生成への応用を目的とした音声区間検出性能の向上