1. 学会活動
1.1 IEEE
2010年からIEEE Signal Processing SocietyのSLTC (Speech and Language Technical Committee) の委員を務めています。それに伴って、2009年からは国際会議ICASSPの査読委員もしています。
1.2 INTERSPEECH
2010年は音声コミュニケーションに関する国際会議 “INTERSPEECH”が日本(幕張)で開催され、私は実行委員(財務委員長)としても、また発表者としても参加しました。財務委員長として仕事を多く抱えていたため、会場近くのホテルに泊まり込み、毎日、学会の運営に携わりました。この実行委員の仕事は、自分にとっても大変良い経験になりました。荒井研からは3件の発表がありました[2010_06, 2010_07, 2010_08]。そのうち、荒井による2件はそれぞれがスペシャルセッションでの発表でした。1件は“Fact and Replica of Speech Production”というスペシャルセッション、もう1件は“Speech Intelligibility Enhancement for All Ages, Health Conditions and Environments”というスペシャルセッションでした。閉会式では実行委員一人ひとりが名前を呼ばれ、また実行委員長の広瀬啓吉先生から皆さんの前で実行委員一人ひとりにギフトをいただくなど、大変思い出深いものとなりました。
1.3 日本音響学会ビギナーズセミナー
2008年からビギナーズセミナーの一部として位置づけられるようになったサマーセミナーですが、ここ何年間か毎年、実行委員兼講師として参加してきたものの、2010年は残念ながら参加できませんでした。
2010年秋季研究発表会では、音響教育調査研究委員会と共催で音響教育に関するスペシャルセッションを開催しました。
1.4 日本音響学会編集委員会
2005年から編集委員会会誌部会の委員として日本音響学会誌と英文誌Acoustical Science and Technology (AST) の編集に携わっています。
1.4.1 日本音響学会誌のビギナーズセミナーに関する小特集
私が音響教育調査研究委員会委員長であることもあり、小特集「誌上ビギナーズセミナー」を担当し、それが日本音響学会誌第66巻9号に掲載されました。担当編集委員として、前書き[2010_05]を共同で執筆しました。
1.4.2 日本音響学会誌に連載企画「音の博物館」
日本音響学会音響教育調査研究委員会が中心となって、日本音響学会誌に連載企画「音の博物館」が2006年12月から4年間に渡り続いてきましたが、ここでひとまずシリーズが終了することになりました。担当編集委員としていろいろな記事をとりまとめてきましたが、2010年は3編の記事を執筆しました[2010_28, 2010_29, 2010_30]。
日本音響学会誌 連載企画「音の博物館」のページ:
http://www.asj.gr.jp/journal/museum.html
1.5 日本音響学会音響教育調査研究委員会
日本音響学会では音響教育調査研究委員会委員を2003年から務め、2005年からは委員長に就任し委員会を取りまとめています。2010年も引き続き委員長として様々な取り組みを進めています。
1.5.1 音響教育研究会
本委員会が主催する「音響教育研究会」が、2010年は1回、6月に九州大学にて音声研究会との共催で行われました。
1.5.2 博物館・科学館との連携
2006~2009年の4年間、国立科学博物館で「音の科学教室 ―音のふしぎ・声をつくろう―」が開催されてきました。この科学教室は日本音響学会との共催で行われ、運営に当たって音響教育調査研究委員会有志の協力を得ていますが、2010年はお休みとなりました。
一方、2007~2009年同様、2010年8月にはサイエンススクエアに「音や振動に親しもう!」と題して音響教育調査研究委員会のブースを出展しました。出展内容は2007~2009年のときとほぼ同じですので、詳しくはニュースレター 2007をご覧ください。
1.5.3 日本音響学会誌に連載企画「音の博物館」
前述のこの企画は、2010年でひとまずシリーズが終了することになりました(1.4.2節参照)。
1.5.4 日本音響学会2010年春季研究発表会
2008年秋季研究発表会から音響教育のセッションがプログラムに組み込まれていますが、2010年春季研究発表会では4件の一般講演があり(荒井研からの発表は、こちらをご覧ください[2010_14, 2010_15])、荒井がセッションの座長を務めました。
1.5.5 日本音響学会2010年秋季研究発表会
音響教育に関する一般セッションでは4件の講演があり(荒井研からの発表は、こちらをご覧ください[2010_24])、荒井がセッションの座長を務めました。その後、スペシャルセッション「やさしい解説 -学会誌記事からの講演-」がビギナーズセミナー実行委員会と共催で開催され、4名の先生方の招待講演がありました。
1.6 日本音響学会音バリアフリー調査研究委員会
2006年に新しく委員会が発足して以来、音声分野の代表として委員を務めています。
1.6.1 日本音響学会2010年秋季研究発表会
2010年秋季研究発表会では、音バリアフリー調査研究委員会のメンバーと共同で音声聴取能力測定に関する発表をしました[2010_25]。
1.7 日本音響学会国際渉外委員会
2005年度から引き続き、委員を続けています。
1.8 日本音声学会
再任され、引き続き評議員を務めることになりました。企画委員は2009年度をもって退きましたが、新たに理事に選ばれると同時に、国際交流委員会委員長を兼任することになりました。さらに、2007年からの広報委員会の副委員長の座は、委員長代理という名前で引き続き務めることになりました。また、2010年から音声学普及委員会が立ち上がり、その委員も務めることになりました。
2. 音響教育・声道模型
2.1 進化し続ける声道模型
2010年は、INTERSPEECHにてスライド式の舌を持った声道模型や、PCによって制御する梅田・寺西式の声道模型について発表を行いました[2010_06](1.2節参照)。
2.2 日立シビックセンター科学館
茨城県日立市の日立シビックセンター内にあるこの科学館が2010年にリニューアルオープンするにあたり、その際に新設された声道模型に関する展示を監修しました。リニューアルオープン直後にこの科学館を訪問し、来館者の方々がどのように展示に接しているかなどを含めて、視察をさせていただきました。当科学館については、日本音響学会誌の連載「音の博物館」の中でも取り上げさせていただきました[2010_29]。
2.3 声道模型がテレビに登場
日本テレビの番組「所さんの目がテン!」にて、カラオケをテーマにした回で声のしくみを説明したい、ということで撮影の協力をしました。
2.4 声道模型のデモンストレーション
2010年も声道模型のデモンストレーションを様々なところで行いました:
- INTERSPEECH
スペシャルセッションで発表しました(1.2ならびに2.1節参照)。 - 上智大学のオープンキャンパス
研究室の公開の一環として、声道模型を展示しました。 - 東京医科歯科大学
「大学院特別講義」として、「見て触って聴いて分かる、音声科学」というタイトルで講義を担当し、その中で声道模型のデモを含めた話をしました。
2.5 小学生向け教材
我々が作った肺の模型の写真が、2005年以来、引き続き進学教室サピックス小学部の教材に採用されています。
3. 国際共同研究ならびに国内共同研究
3.1 University of Arizona
Department of LinguisticsのDr. Natasha Warnerとの共同研究が、論文として出版されました[2010_02]。
3.2 石川工業高等専門学校
字幕プロジェクト(4.1節参照)に関して、金寺登先生と共同研究を進めています。その成果はこちらをご覧ください[2010_16]。
3.3 武蔵工業大学
吉野邦生先生と、新たな本の出版に向けて執筆活動を進めています。
3.4 国立精神・神経医療研究センター
言語聴覚士の廣實真弓先生と2008年から共同研究をさせていただいています。2010年度からは学外共同研究として本格化しています。荒井研側のプロジェクトメンバーは、安啓一、篠田貴彦、伊藤紫乃。
4. 産学連携
4.1 株式会社フジヤマ
2004年から株式会社フジヤマ(吉井順子社長)と共同プロジェクトが進んでいます。2009年度からは学外共同研究として本格化しています。荒井研側のプロジェクトメンバーは、Pek Kimhuoch、上條賢、鹿野沙也香、小野敬太。2010年の成果はこちらをご覧ください[2010_16]。
株式会社フジヤマのホームページ:
http://www.fujiyama1.com/
4.2 TOA株式会社
拡声システムから流す音声の明瞭度改善に関して、TOA株式会社と共同研究が進んでいます。特に、栗栖清浩さんには大変お世話になっています。2006年度からは学外共同研究として本格化しています。荒井研側のプロジェクトメンバーは、程島奈緒、吉田航、千葉亜矢子、松風要平、辻美咲、中村進、川島佑亮、さらに実時間処理に関しては山邊祐史、武田昌也がお世話になっています。2010年の成果はこちらをご覧ください[2010_09, 2010_22, 2010_26]。
TOA株式会社のホームページ:
http://www.toa.co.jp/
4.3 株式会社ホンダ・リサーチ・インスティチュート・ジャパン
残響音声のシミュレーションに関して、2009年から学外共同研究が始まりました。荒井研側のプロジェクトメンバーは、鈴木淑正。2010年の成果はこちらをご覧ください[2010_10, 2010_23, 2010_27]。
4.4 株式会社アニモ
国立精神・神経医療研究センター病院の廣實真弓先生との共同研究に関連して、2010年度に学外共同研究が行われました。
4.5 日本テキサス・インスツルメンツ株式会社
ユニバーシティープログラムの始まりと共に上智大学はお世話になっており、DSPS教育者会議では荒井研の山辺祐史が発表しました[2010_26]。
日本テキサス・インスツルメンツ株式会社のホームページ:
http://www.tij.co.jp/
5. 助成を受けた研究プロジェクト
5.1 科学研究費補助金(基盤研究C, 21500841)
2009年度から私が研究代表者で、「人間の音声生成機構を分かりやすく説明する声道模型の改良とその音響教育応用」という2年間のプロジェクトが始まりました。2010年の成果はこちらをご覧ください[2010_06, 2010_14, 2010_15, 2010_24]。
5.2 オープン・リサーチ・センター(ORC)整備事業
2007年度から情報理工学科田中衞先生が代表者の「人間情報科学研究プロジェクト」がスタートしましたが、2010年度で4年目を迎えました。私は3つのグループのうちの1つ、「ヒューマン・コミュニケーション・グループ」のグループ長としてプロジェクトをリードしておりますが、本グループは文理融合型の研究体制を取っており、言語学専攻、心理学科認知心理学研究室を始めとする学内メンバーの他、学外では早稲田大学の近藤眞理子先生もメンバーに加わっていただいています。2010年度からは本プロジェクトは時限研究部門として「人間情報学研究センター」になりました。2010年の研究成果はこちらをご覧ください[2010_01, 2010_03, 2010_04, 2010_05, 2010_06, 2010_07, 2010_08, 2010_10, 2010_11, 2010_12, 2010_13, 2010_14, 2010_15, 2010_16, 2010_17, 2010_18, 2010_19, 2010_20, 2010_21, 2010_23, 2010_25]。
このORCプロジェクトでは、以下のように2010年度に2回の研究会を開催しました(敬称略):
【第1回ORC研究会】
講演者:B. Yegnanarayana (IIIT Hyderabad, India)
タイトル:Acoustic Correlates of Perceived Loudness of Speech Produced Indifferent Contexts
【第2回ORC研究会】
講演者1:Roy D. Patterson (University of Cambridge, UK)
タイトル:The Role of F0 in the Perception of Musical Instrument Register
講演者2:Hideki Kawahara (Wakayama University, Japan)
タイトル:Recent Advances in Speech Representation and Manipulations Based on VOCODER Architecture
5.3 その他の研究助成
5.3.1科学研究費補助金(若手研究B, 21700203)
程島奈緒が研究代表者で、「残響下で高齢者や非母語話者に明瞭な録音音声・肉声による拡声音声の調査」というテーマの研究が進んでいます(2009年度~2011年度)。
6. 学内における文理融合・共同研究
6.1 外国語学研究科言語学専攻
前述のORCプロジェクトでは、石川彰先生、吉田研作先生、篠原茂子先生や、言語聴覚研究センターの先生方とご一緒させていただいています(5.2節参照)。
言語聴覚研究センターの進藤美津子先生、原恵子先生ならびに言語障害研究コースの皆さんとの共同研究も進んでいます。その研究成果の一部はこちらをご覧ください[2010_13, 2010_20, 2010_21]。
荒井研の2010年度の博士論文では、増田斐那子の副査を吉田先生にお願いしました。荒井研の2010年度の修士論文では、篠田貴彦の副査を進藤先生に、井戸俊輔の副査を菅原勉先生にお願いしました。
6.2 心理学科認知心理学研究室
前述のORCプロジェクトでは、道又爾先生ならびに認知心理学研究室の皆さんとも一緒に共同研究が進んでいます(5.2節参照)。
7. 社会への貢献・著書など
7.1 国立科学博物館
前述の1.5.2節をご参照ください。
7.2 日立シビックセンター科学館
前述の2.2節をご参照ください。
8. 荒井研内のニュース
8.1 ジャーナル論文
高齢者に対する残響環境下での明瞭度改善に関する論文が、IEEE Trans. on Audio, Speech, and Language Processing誌に掲載されました[2010_01]。University of ArizonaのDr. Natasha Warnerとの共同研究に関する論文が、Language and Speech誌に掲載されました[2010_02](3.1節参照)。増田斐那子の論文が、Acoustical Science and Technology誌に掲載されました[2010_03]。
8.2 学位論文審査
荒井研の増田斐那子に対する博士号の学位審査が、2011年1月に行われました。前述の通り、言語学専攻からは吉田先生に副査をお願いしました(6.1節参照)。また学外からの副査は、東京外国語大学の佐藤大和教授にお願いしました。荒井が主査を務める5人目の荒井研ドクターの誕生となりました。
8.3 特別研究員・研究補助員
荒井研で2010年3月まで特別研究員をしていた程島奈緒が、2010年4月から東海大学で講師に着任しました。2009年10月から荒井研で特別研究員をしていた網野加苗は、2010年4月から科学警察研究所にて日本学術振興会の特別研究員になりました。
2010年4月から引き続き、荒井研の安啓一、増田斐那子、Pek Kimhuochが研究補助員でした。さらに、井下田貴子が新たに研究補助員に加わりました。
8.4 理工学部共同研究員
2010年度も引き続き、吉井順子さん(株式会社フジヤマ)、栗栖清浩さん(TOA株式会社)、小林敬さん(オークランド大学・ニュージーランド)、西海枝洋子さん(理化学研究所)が理工学部共同研究員でした。
8.5 客員教授
2007年10月から、産業技術総合研究所(産総研)の倉片憲治先生に客員教授としてご指導を受けています。これは、上智大学と産総研との教育研究協力に関する協定(連携大学院制度)によるものです。
8.6 Fastlの会
2007年から、リオン株式会社の皆様、産総研の皆様、そして上智大学、特に荒井研のメンバーを中心に、「Fastlの会」を毎月開催しています。この会では、Fastl & Zwicker著の“Psychoacoustics”という教科書を輪読しています。
9. 学位論文題目
9.1 博士論文
増田斐那子
Effect of L1 influence and L2 proficiency on the perception and production of foreign sounds
9.2 修士論文
篠田貴彦
音声の録音・音圧レベル測定システムの構築とその健常者への応用
山邉祐史
音声定常部抑圧処理のリアルタイム化のためのアルゴリズムの検討
中嶋雄大
実時間処理を考慮に入れたサウンドマスキングシステムのための音声マスカーの検討
上條賢
字幕付与動画における字幕表示タイミングの取得アルゴリズムの提案
鈴木淑正
音響シミュレーションを用いた音源指向性の再現と音源方向推定への適用
井戸俊輔
雑音下における日本語モノリンガルと日英バイリンガルの英語音声知覚の比較
千葉亜矢子
残響環境下における処理音声の「聴き取りにくさ」による評価:
定常部抑圧処理の効果の検討